材料合成のいろは(第2回)

MMブログ

先行研究の論文の読み方

 材料研究を行う上で先行研究の論文を読んで同じ材料の合成もしくは自分が合成したい材料の参考にすることがあります。これはレシピを見て料理を作るのと似ています。但しこのレシピはプロ向けのレシピになっています。フレンチで例えるとステーキなどではではアロゼしながら焼くもしくは場合によってはそれすら書いていない事があります。なぜならフレンチのシェフにとって肉を焼くときにアロゼするのは当たり前の技法だからです。※1 論文を読むときに問題となるのは基本的な技術などに関しては省略されている場合が多くあります。特許情報を参考にする場合においてもノウハウに類する事項は社外秘として敢えて特許には記載しないことが多々あります。そこで論文で省略されている情報を補完しながら読み取ることが必要となります。

※1 アロゼ:肉や魚を焼くときに鍋やフライパンに溜まったオイル、ソースなどをすくって肉などにかける事、肉の上面からも柔らかく火が通り、水分の蒸発も抑制できるのでふっくらと柔らかく焼き上げることが出来る。

 材料合成の初心者が論文を読むときにはまずは実験全体の流れを確認し、実験室にある装置を使って実験することを頭の中でシミュレートします。この時に実験装置に不足があり異なる装置で代替するような事が有るのであれば素直に指導教官に相談するなりしましょう。過去の歴史を見ても正規の方法以外の作業を行なった事による事故は多数発生しています。次に出発原料、プリカーサなどのMSDSがないか調べます。次に構成元素の酸化物、水酸化物の有無とその性質などを調べます。これは何のために調べるかというと大気中で取り扱って酸素や水分に触れた時に何が起こるかを類推するためです。ちなみに一般的に硫化物は酸と接触することで有毒な硫化水素ガスが発生するのですが、アルカリ金属硫化物(K2Sなど)では酸ではなく水との反応でも硫化水素ガスが発生します。水で分解されて水素化物のガスが発生するかどうかは構成元素が水酸化物をつくるかどうかで決まります。そこで両性金属で有るAlの硫化物は水に触れると硫化水素が発生することが判ります。硫化物以外でもリン化合物やヒ素化合物でも同様にホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)が発生するので注意しなければなりません。リン化アルミニウムは空気中の水分と反応してホスフィンガスを発生するのを利用して燻蒸剤に使用されています。

AlP+3H2O→Al(OH)3+PH3

 次に構成元素の全ての組み合わせの2相相図を調べます。相図を見ることで様々なことが判ります。共晶組成の相図では共晶点を持ちます、固相反応で合成を行う場合には合成温度を共晶点の温度以下にしないと部分的にでも溶融してしまう可能性があることが判ります。また相図に気体相がある場合には合成温度をその温度以下にしておかないと分解する可能性があります。これらの情報を元に論文の合成条件の再確認を行います。

 最後に論文を読んで合成のキーポイントがどこにあるにか出来るだけ読み取るように努力してみます。これらの事を続けていくうちに徐々に材料合成のための知識や能力が向上していくと思います。本日はここまでにします、次回以降も材料合成初心者のためのノウハウを書いていこうと思います。

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